シーズン真っ只中!レース直前のネガティブ思考を消化する。
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7月に入りいよいよシーズンも本番に入って来ました。「日々のテーパリングはまずまず」「オフシーズンの練習も怠らずしっかり出来た」「栄養やサプリメントもバランス良く摂れている」、、、「今シーズン絶対いけるはず!」と刻々と迫る大事な試合に準備万端で挑む選手は少なくないだろう。しかし試合レース直前の招集場所、観覧席の音がやけに大きく聞こえ、「フライングしてしまわないか?!」「これで記録破れなかったら•••」「また最後75mで失速したらどうしよう」とそれまで前向きだった気持ちが無性に不安とネガティブな考えに襲われるのは、泳力レベル関係なく誰もが経験する事だろう。
今日のテーマはそんな絶好調なシーズン中でも誰もが経験するレース直前のネガティブな考えへの対処法です。
このネガティブ思考は一度始まれば直ぐに抜けるという事がまず難しいツワモノだという事は、レース前の緊張感を味わったことがある人なら分かるはず。そこで具体的な対処法にはいる前にまず覚えておきたい事は:
「どんなに不安やプレッシャーにかられても、ベストな泳ぎをする事は可能である」という一言。
ー そう!不安にかられてもいいんです!むしろ当たり前。様々なプレッシャーの中でもベストパフォーマンスを引き出す事は可能だという事を覚えておくだけで、既に気が楽になる気がします。さらにはそのネガティブ思考を自らコントロールする手段を少し覚えるだけで、ずいぶん楽にレースに挑めるようになるでしょう。
ネガティブ思考をコントロールする第一歩はまず今までの「ポジティブ(前向き)になるとは」という<理想の前向きになる方法>の根本を理解することから始まります。
良く聞く「ポジティブになる」という事の中には:
- ポジティブである事がベストなパフォーマンス、タイムを引き出す。
- ネガティブな思考は残念な結果に結びつく。
- ネガティブ思考をコントロールする事でポジティブになれる。
- レースや大事な時にネガティブ思考が始まれば、直ぐに取り払った方がいい。
- ネガティブ思考は持つべきではなく、ネガティブに考えてしまう時は自分の覚悟が決まっていないからである。
実は思い込み?!
まず、これらの「ポジティブになる」という漠然とした項目は実は「思い込み」に過ぎない。そしてレースぎりぎりで、いわゆる「ネガティブ」な事を考えてしまう事はごく普通な現象だという事を覚えておくだけで、大分楽になるはず!どんなに速い選手でもこのネガティブ思考には襲われます。しかし、ネガティブな事を考え始める自分がいるからといって、レースへのモチベーションが下ったり、心の準備が出来ていない、良い泳ぎが出来なくなるという事には繋がらないはず。ましてやレースでベストを出す為に日々の練習にどれだけ打ち込んできたかは、自身が一番分かっている事で、「直前のネガティブ」がそれまで積み上げてきたスキルを台無しにする力があるとは考え難いですよね?ネガティブ思考が出るのは、モチベーションを上げて来た神経の動きと同様に、単に神経系の反応で、レースへの気持ちの準備の一環なのです。
問題はネガティブ思考が出てくる事ではなく、選手自身がどう反応するかにある。
抵抗すればする程持続する!
ネガティブになるのはごく普通の現象だという事は分かったけど、「ならどうすればいい?」というのが本当に知りたいところですね。レース前にネガティブ思考に襲われたら、大抵の場合「ポジティブにならないと!」「ネガティブな事は考えない!」と必死に自身の考えている事をねじ伏せようとして、結果余計に不安が増すという悪循環に陥る事がしばしばあると思います。なぜでしょう?答えはごくシンプル。自分が考えてしまう事をコントロールするのはまず無理なのです!あなただけが出来ないのではなく、人間なら誰でも無理!だから無理で答えの無い、いわば無駄な抵抗は辞めましょう。こんな時は逆の発想でアプローチを考えてみましょう。正に「押してダメなら、引いてみろ」の原理!自分の頭の中にあるネガティブ思考を押しきろうとするのではなく、落ち着いて、受け入れる(または応じる)スタンスに切り替えてみよう。
具体的にどんな風に切り替えるのか?:
- ネガティブ思考は当たり前な事で、考えても良いんだと、考えている事そのものを肯定してしまう。
- ネガティブ思考に対して戦おうとしない。(頭の中に居させてあげる。)
- ネガティブ思考があってもベストパフォーマンスはできます。
- ネガティブ思考が悪要素なのではなく、それに対する自身の反応(ねじ伏せようとする抵抗)が真の悪要素であり、レース前のストレスにつながる事を理解する。
- レース前のストレッチやいつもやっている事にフォーカスする。
「考える」事はさておき、「する」・「感じる」を重視する
ここまで話してきた事から明確なのは、肝心なレースでのパフォーマンスに大事なのは、自らの考えに気を取られるのではなく、レース前・レース中にする事である。掘り下げて言えば、レース前やレース中に物理的にする事・感じる事が大事なのです。レース前のプレッシャーと戦うのではなく、例えば物理的にする事:ストレッチ中に感じる筋肉の状態、ゆっくり深呼吸するときの呼吸機能の感じなどいつもレース前にする事の中でコンディショニングに気を入れる。もしもレース中にネガティブ思考が出そうになれば、すぐに今すぐする事:呼吸回数、ターン後の潜水の長さ、水をかけているかなどを考えその瞬間に物理的・具体的・効果的に対処する方向にもっていくといいでしょう。これはトップに健在するオリンピアンでも常に向かい合う課題だといえます。どんなときでも直前の不安やプレッシャーに対して「その日のパフォーマンスを左右する要素ではない」という事を理解しておく事が一番です。そして意識的に考えないようにしたり、ポジティブに変えようとするのではなく、今できる事・具体的にやらなければいけない事に重点を変えてレースに臨んでみましょう。
*この記事はUSA SWIMMING オフィシャルサイトよりDr. Alan Goldberg(アラン・ゴールドバーグ氏:コロラドスプリング米国オリンピック・トレーニングセンター専属スポーツ臨床心理学者)の記事を元に翻訳されたものです。
Article taken from USAswimming.org